令和3年11月26日に補正予算案が閣議決定したことに伴い、経済産業省関連資料が公表されました。
これによると、中小企業関係の補正予算案は3兆8,594億円で、コロナで売り上げが落ち込んだ事業者への給付金である「事業復活支援金」が大きな割合を占めます。
また、賃上げ・グリーン事業・デジタル化・インボイス対応などの取組みに対して、補助率や上限額の引上げが行われる点にも注目が集まります。
本記事では、令和3年度補正予算の内容について、各種補助金に着目して解説していきます。これから補助金の申請を検討されている事業者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
事業
ここでは、令和3年度補正予算案の概要と、中小企業対策としての事業再構築補助金の位置づけについて説明します。新設される補助金や既存制度の取扱いについて確認しましょう。
概要
令和3年度補正予算案では、引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者への重点的支援を継続しつつ、売上高減少要件の緩和などにより使い勝手の向上が図られます。
特に、「ガソリン車向け部品から電気自動車等向け部品製造への事業転換」など、グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象に、従来よりも補助上限額を引き上げ、売上高減少要件を撤廃した新たな申請類型を創設することで、ポストコロナ社会を見据えた未来社会を切り拓くための取組を重点的に支援する予定です。
中小企業対策の事業再構築補助金
新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、中小企業等が、新分野展開や業態転換などの事業再構築を通じて、コロナ前のビジネスモデルから転換する必要性は、依然として高い状況にあります。
こうしたことから、令和2年度3次補正予算で措置した中小企業等事業再構築促進事業では、必要に応じて見直しや拡充を行いながら、中小企業等の事業再構築を支援し、日本経済のさらなる構造転換を図ることを目的とします。
補助金の種類
令和3年度の補正予算では、コロナウイルスの影響による経済対策として、様々な補助金・給付金が用意されました。ここでは、補助金・給付金の種類ごとに概要について説明していきます。
事業復活支援金
事業復活支援金は、新型コロナウイルスの影響を受ける事業者を対象とする支援金です。地域・業種を問わず、固定費負担の支援として5カ月分の売上高減少額を基準に支給されます。
事業者が3月までの見通しを立てられるよう、算定された金額を一括給付する点が大きな特徴といえます。下記に概要をまとめます。
対象者 | コロナの影響で、2021年11月~2022年3月のいずれかの月の売上高が50%以上または30%~50%減少した事業者 |
開始時期 | 補正予算成立後、所要の準備を経て申請受付開始予定 |
給付額 | 5か月分(11~3月)の売上高減少額を基準に算定 |
また、給付金の額は、事業規模や売上減少率によって上限額が異なり、売上の減少が大きいほど金額が大きくなります。中小企業と個人事業主の給付額(5か月分)をまとめたものは下表の通りです。
中小企業等 | 50%以上減 | 30~50%減 |
・年間売上5億円超 | 最大250万円 | 最大150万円 |
・年間売上1億円超~5億円以下 | 最大150万円 | 最大90万円 |
・年間売上1億円以下 | 最大100万円 | 最大60万円 |
個人事業主 | 最大50万円 | 最大30万円 |
事業再構築補助金
事業再構築補助金では、「回復・再生応援枠」「グリーン成長枠」の創設が予定されています。
「回復・再生応援枠」は、引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者を対象とします。
通常枠の申請要件に加え、
「2021年10月以降のいずれかの月の売上高が対2020年または2019年同月比で30%以上減少していること」
「再生支援協議会スキーム等に則り再生計画を策定していること(詳細な要件は検討中)」
のいずれかを満たすことが要件とされています。
「グリーン成長枠」は、グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者を対象とします。
補助限度額は最大1.5億円まで引き上げられ、売上高の10%減少要件が課されない点が大きなポイントです。
グリーン成長枠の例としては、ガソリン車向け部品製造から電気自動車向け部品製造への事業転換が挙げられています。
また、現行の売上高10%減少要件について、「2020年10月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高がコロナ以前と比較して5%以上減少していること」が撤廃されることになりました。
これにより「2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前と比較して10%以上減少していること」のみを要件とするように緩和されます。
生産性革命推進事業
生産性革命推進事業は、中小企業・小規模事業者の設備投資、IT導入、販路開拓を支援する事業です。
令和3年度補正予算では、通常枠の一部見直しや、グリーン・デジタル・賃上げ等に対応するための特別枠の創設を予定しています。
その他にも、補助率や上限額の引き上げにより、企業の成長投資の加速化と事業環境変化への対応を支援します。
補助事業ごとの内容について、以下で説明します。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、企業の革新的製品・サービスの開発、又は、生産プロセス等の改善に必要な設備投資等を支援する制度です。
令和3年度補正予算では、賃上げ等に取り組む中小企業や、グリーン・デジタル分野へ取り組む企業に対する特別枠を創設し、優先採択や補助率引き上げを行う予定です。
下表にて概要についてまとめます。
申請類型 | 補助上限額 | 補助率 |
通常枠 | 750万円、1,000万円、1,250万円(※従業員規模により異なる) | 原則1/2(小規模事業者・再生事業者は2/3) |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 2/3 | |
デジタル枠 | ||
グリーン枠 | 1,000万円、1,500万円、2,000万円(※従業員規模により異なる) |
持続化補助金
持続化補助金は、小規模事業者が経営計画を策定して実施する、販路開拓等の取組みを支援する制度です。
令和3年度補正予算では、「賃上げや事業規模の拡大」「後継ぎ候補者が実施する新たな取り組みや創業」「インボイス発行事業者への転換」に取り組む事業者向けの特別枠が新設されます。下表にて概要についてまとめます。
申請類型 | 補助上限額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3(成長・分配強化枠の一部の類型において、赤字事業者は3/4) |
成長・分配強化枠 | 200万円 | |
新陳代謝枠 | 200万円 | |
インボイス枠 | 100万円 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、業務効率化やDXのために導入するITツール等の費用を支援する制度です。
令和3年度補正予算では、インボイス対応を見据えた会計ソフト等の導入を促進するため、補助率の引き上げ、クラウド利用料の2年分の補助、PC等のハード購入補助などを実施します。
また、複数の中小・小規模事業者間での「商業集積地・サプライチェーン等で連携したITツール・機器の導入」を支援するため、複数社連携型IT導入枠を設け支援していく予定です。
下表にて概要についてまとめます。
補助対象 | ITツール(会計ソフト、受発注システム、決済ソフト等)、PC、タブレット、レジ等 |
ITツール補助額 | ~50万円(補助率3/4)、50~350万円(補助率2/3) |
PC、タブレット等補助上限 | 10万円(補助率1/2) |
レジ補助上限額 | 20万円(補助率1/2) |
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業引継ぎ時の専門家活用費用や、引継ぎ後の設備投資等の取り組みを支援する制度です。事業承継・引継ぎに関連する廃業費用等についても支援を行っています。
令和3年度補正予算では、令和4年度の事業承継・引継ぎ補助金の上限額は150万円~600万円、補助率は1/2~2/3とされています。
事業環境変化対応型支援事業
事業環境変化対応型支援事業は、コロナウイルスの影響による環境変化に直面する中小・小規模事業者を対象とする事業です。
中小企業団体等の支援者が、経営者等との対話を通じて経営課題を抽出する等の課題設定型の伴走支援を実施します。
また、最低賃金引き上げやインボイス制度導入等の環境変化への対応に対しても、制度の周知やデジタル化支援・相談等を行う中小企業団体や支援機関等の支援体制強化に取り組む予定です。
その他補助金
その他の補助金として、「がんばろう!商店街」事業があります。
これは、コロナウイルスの感染状況を踏まえ、商店街等が行う需要喚起イベント等の開催を支援する制度です。
令和3年度補正予算では、イベント参加者の感染リスク低減を目的とした「期間・時間・場所」を分散させる取り組みを優先的に支援するとしています。
また、「ワクチン・検査パッケージ」の導入にかかる費用を補助対象に追加し、補助上限額を引き上げる予定です。
補正予算案のポイントと注意点
ここでは、令和3年度補正予算のポイントと注意点について説明します。
各種補助金の申請を行う前に、経済産業省の予算全体における主要事業についても確認しておきましょう。
主要事業
経済産業省の予算全体における、主な事業は以下の7つです。
1.感染症の影響により厳しい状況にある方々の事業や生活・暮らしの支援
2.「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え
3.科学技術立国の実現
4.地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」
5.経済安全保障(半導体産業基盤緊急強化パッケージ)
6.安心と成長を呼ぶ「人」への投資の強化
7.福島第一原発の廃炉・汚染水・処理水対策、風評対策
注意点
各種補助金には、申請要件と申請期限が必ず設けられています。まずは、自社が申請要件に合致するか否かを補助金要領などで確認しましょう。
要領を読み込んでも申請要件の可否が判明しない場合、事務局へ直接確認する等の対応が必要です。
また、申請要件に合致していたとしても、期限を超過してしまうと対象外となってしまいます。申請期限についても必ず事前に確認しましょう。
補助金の申請にあたっては、必要書類の準備や、事業計画の策定など様々な準備が必要となります。申請に際しては、余裕をもったスケジュールで取組みましょう。
まとめ
本記事では、経済産業省の令和3年度補正予算案について、各種補助金を中心に説明しました。
「事業復活支援金」は新たな経済対策として注目を浴びており、固定費負担の支援として5か月分(11~3月)の支援金が一括給付される点が特徴です。
また、既存の補助金制度についても申請枠の拡充や要件の緩和が予定されています。
「最低賃金引き上げ」「グリーン事業」「デジタル対応」などを対象とした支援も拡充されるため、自社の取り組みが制度に該当するか否かを、今一度確認してみましょう。